2011年10月28日金曜日

ハムレット SCENE 12

ハムレット Hamlet 飜譯一覽
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『マクベス Macbeth(下書き)』は,こちら
                                      
Scene 12
國王,女王と ローゼンクランツ,ギルデンスターン 出る.
1 國王. 只ならぬ溜息と苦しげな息遣(づか)ひ.さあ,その譯(わけ)を.
    こちらも知つて置く方が.どこだ,お前の子は.
   ガート. どうかこの場は,暫く二人に.    ローゼ.とギルデ. 退る.

    [ガートルードがクローディアスにどのやうな報吿をするのか,
     觀客としては氣掛りな場である.]

    あゝ,あなた,どうしたら.何をまた,この眼に,今宵.
   國王. 何をだ,ガートルード.で,ハムレットは.
   ガート. 氣が觸(ふ)れて,あたかも大海原と大(おほ)風の,
    力を競はう,荒(あ)れ荒(すさ)び.と,その,狂ふた最中(さなか)
    壁掛けの裏に物音を聽き,劔(つるぎ)を拔くや,
    鼠め,鼠と叫び立て,つひに己の思ひ込みから,
    見もせで,あの年寄りの命を奪ひ.
5   國王. おゝ,何たる事を.この身も同じ目に,もしやゐたなら.
    あれを放(はな)ち置くは,竝(な)べての怖れ.お前は固(もと)より,
    この身や總ての者にとり.あゝ,どう此の血塗(まみ)れた行ひを,
    言ひ繕(つくろ)へば.やがて咎(とが)めは,こちらへと.
    豫(あらかじ)め思ひ致し,狂ふた若者は閉ぢ籠めて,
    離れた處(ところ)へ連れ行くべきをと.
    が,餘(あま)りにあれが愛(いと)ほしく,
    爲(な)すべき事を知らうともせで.悪しき病の持主さながら,
    他人(ひと)に明かさず,やがて命は病(やまひ)の餌食に.
    で,どこへと,あれは.
   ガート. どこか外へと,殺(あや)めた亡骸(なきがら)と.
    氣の觸(ふ)れた身で,あたかも一筋,岩膚(はだ)に,
    金色(こんじき)の礦脈(くわうみやく)が煌(きら)めく樣に,
    無垢な心を示してか,己が仕業(しわざ)に淚して.

[ガートルードは,ポローニアスがハムレットにより殺められたことは傳へたが,その他については,クローディアスに僞りの報吿する.つまり,ハムレットが先王殺害の事實を知つてをり,狂氣を裝ひ,復讎の機會を窺つてゐるとの秘密を隱し通す.ガートルードの心は,まさに,二つに引裂かれたのである.クローディアスは,孤立を深める事となる.]

   國王. おゝ,ガートルード,さ,あちらへ.
    朝日も間も無く,山の端(は)に.すぐにもあれを,船出させよう.
    忌(い)むべき出來事に,王の權威と手立てをつくし,
    事無きやうに取り收めねば.        そこへ ローゼ. とギルデ.
    さ,ギルデンスターン.二人には,誰か他にも扶(たす)けとなる者を.
    氣の觸れたハムレットが,ポローニアスを殺(あや)め,
    母親の居間から軀(むくろ)を引き摺り,いづこかへ.
    あれを探し出せ,言葉穩やかに.そして,亡骸(なきがら)は,
    禮拜(らいはい)堂へ.呉〻も速(すみ)やかに.          二人,退る.
    さあ,ガートルード,これより王國の諸侯を集め,
    豫(あらかじ)め傳(つた)へておかねば,この身の思ひと,
    思はぬ此の出來事とを.あらぬ噂は世の果てへまで,
    狙ひ定めた砲筒(はうづゝ)さながら,その害毒を運び行かうが,
    的となる,こちらの名を逸(そ)れ,傷附く者無き虛空を擊たすべく.
    さ,行かう.心は亂(みだ)れ,憂ひは溢れ出むばかりにも.
                                退る.

 

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