2011年10月18日火曜日

ハムレット SCENE 4

ハムレット Hamlet 飜譯一覽:
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『マクベス Macbeth(下書き)』は,こちら
                                      
Scene 4
ハムレット,ホレイショー,マーセラス 出る.
[第1場と同じ場所.眞夜中との想定.松明を持つなどして登場.]
1   ハムレ. 冷えが身を咬む,ひどい寒さだ.
  ホレイ. (はだ)を刺すかに,張り詰めた.
  ハムレ. で今,何時に.
  ホレイ. ほどなく,十二時かと.
5   マーセ. いや,もう打つた.[携帶時計の鐘であらう.]
  ホレイ. 確かゝ,聞き逃した.と,今や刻(とき)も,
       精靈の出步かう頃.
              ファンファーレと大砲の音,奧にて.
       はて,また,あれは.
  ハムレ. 王が夜通し宴(うたげ)をと,酒を呷(あふ)り,
       したり顔で踊り明かしを.しかも,
       飲干すラインの葡萄酒每(ごと)に,
       ドラムとトランペットで飲み振りを囃(はや)し立て.
  ホレイ. それが,習(ならは)しに.
  ハムレ. いや,まさに.が,思ふに己が産土(うぶすな)の地の,
       國振(くにぶ)りながら,この習しを破る者こそ,
       從ふ者より褒(ほ)むべきと.この深酒の亂痴氣(らんちき)騷ぎを,
       西や東で.これが他國からの侮(あなど)りの種に.
       ひとを醉ひどれと呼び,豚竝みの綽名(あだな)で蔑(さげす)む.
       爲に成し遂(と)げた,如何に見事な手柄(てがら)でさへ,
       譽(ほま)れの中身は骨拔きに.これは人の身の上にも.
       爲人(ひとゝなり)の持つ,謂(い)はゞ目に障(さは)る痣(あざ)か.
       生れ附いてゞは己に罪は無い,(生れを選ばう手立て無し).
       その,目に立つ見掛けの幾つかゞ,時に相手の,
       理解の枠(わく)を踏み毀(こは)す.または,
       癖ある行ひの程が過ぎ,マナーとやらを臺(だい)無しに.
       かくて瑕(きず)者と烙(らく)印を捺(お)され,
       生れの宛(あ)てがふ,仕著せや星の巡り合せで,
       他の美徳は能(あた)うる限り,人に優れて雅びなりとも,
       世の目は惡しきに注がれて,ことさら瑕を論(あげつら)ふ.
       黴(かび)一缺(かけ)にて,殘る總ての命さへ,
       疑はしきは,坩堝(るつぼ)へと.
                 亡靈 出る.
10 ホレイ. あれを.あそこに.
  ハムレ. 天の諸天使,御(み)使ひよ,加護やあれ.
        [以下,亡靈へはラテン語との心]
       はても汝(なんぢ),精靈なりとも奈落(ならく)の鬼とも,
       今吹く風も天よりか,地獄の毒氣か,その心,
       邪(よこしま)なりとも,誠(まこと)なりとも,
       かくも怪しき出立(いでた)ちなれば,いざ,問はむ.
       先づは呼.ハムレット,國王,父上,デンマーク王,
       さあ口を利け.張り裂くなかれ,この身を謎で.
       いざ,申せ.なぜに手厚く弔はれたに,
       淸き帷子(かたびら)を破り捨てしか.
       何ゆゑ墓の石室(いしむろ)は,汝ひとたび軀(むくろ)となりて,
       身を安(やす)らへしに,今,大理石の重き口を開け,
       ふたたび汝を,この世へと.
       何ゆゑか.汝,屍(かばね)を,またも鋼(はがね)の衣に覆(おほ)ひ,
       舞ひ戾りたる,この月夜,今や更にも悍(おぞ)ましく,
       果敢(はか)なき我らを戰(をのゝ)かせ,思ひ及ばぬ謎へと誘ふ,
       その譯は.さあ,なぜだ.何がある.どうせよと.
               亡靈手招きす.
  ホレイ. 手招きで後へ續けと.話は二人だけでと言ふかに.
  マーセ. あれを.恭(うやうや)しげに,別の處へと.
       が,決してなりませぬ.
  ホレイ. いや,何あらうと.
15 ハムレ. 口を利かぬ氣だ,ならば,行く.
  ホレイ. なりませぬ.
  ハムレ. は,何を恐れよと.命など,縫ひ針ほどの,
       値(ね)とも思はぬに.この魂へも,何があれに出來ようか.
       不滅とならば,こちらも同じ.それまた,招く.
       いざ,後を.
  ホレイ. もしや水邊(べ)に誘はれたなら,
       または切立つ崖(がけ)の頂(いたゞき),しかも突き出た,
       眞下は海となら.たちまち相手は恐ろしき姿を現はし,
       理性を奪ひ,狂氣の渕(ふち)へ引込まうやも.お考へを.
       崖の際(きは)に只ゐてさへも,生きる望みを斷ち切られ,
       遙(はる)か眞下(ました)の波のうねりに,思はず己を委(ゆだ)ねたくも.
  ハムレ. 招いてゐる.行け.續(つゞ)かうぞ.
20 マーセ. なりませぬ,それは.
  ハムレ. 放せ,その手を.
  ホレイ. 御分別を,決して,それは.
  ハムレ. (おの)が定めが,呼ばふのだ.聲(こゑ)は身の内を驅け巡り,
       五體(ごたい)に力の漲(みなぎ)るは,ニミアの獅子の如くにも.
       まだ招く.放せと賴むに.えゝ,何と.
       [劍を抜き放ち]ならば,ふたりを亡靈仲間に,
       止立てあらば.よいか,戾れ.行け,續かうぞ.
             亡靈とハムレット 退る.
  ホレイ. 幻に,まるで心を搔き亂(みだ)されて.
25 マーセ. さあ,後を,まさか,お言葉通りには.
  ホレイ. よし,行かう.果たして何が起らうか.
  マーセ. 何かが腐つて,このデンマークでは.
  ホレイ. 天がお教へを.
  マーセ. それ,後を.                    退る.

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