2012年6月3日日曜日

Shakespeare の臺詞は,どう『詠まれる』べきか.(3)

                                      

Shakespeare の臺詞は,どう『詠まれる』べきか.(3)

さて,俳句の背後には『八拍』のリズムがあるとなると,では,歌舞伎の臺詞はどうであるかが氣になり,そこで唯一,ほゞ丸のまゝ,臺詞囘し(口跡)を記憶してゐる『假名手本忠臣藏六段目』にある,切腹直後の勘平の臺詞で試してみることゝした.

以下が,その結果である.

如何なればこそ ● / 勘平は ● ● ● /
三左衞門が ● / 嫡子と生れ ● /
十五の歲より / 御近習(ゴキンジュ)勤め ● /
● 百五十石(ヒャクゴジッセキ) / 頂戴なし ● ● /
代々鹽谷(エンヤ)の / 御扶持を受け ● ● /
束ぬ間御恩を / 忘れぬ身が ● ● /
● 色(イロォ)(ニィィ) ● /
● 色に耽つた / ばつかりに ● ● ● /
大事の場所にも / あり合はさず ● ● /
その天罰(テンバッ)にと / 心を碎き ● /
(オン)仇討ちの ● / 連判に ● ● ● /
加はりたさに ● / 調達(チョウダッ)の ● ● ● /
● 金も返つて / 石瓦(イシカワラ) ● ● ● /
(イスカ)の嘴(ハシ)ほど / 食ひ違(チゴ)う ● ● ● /
言ひ譯無さに ● / 勘平が ● ● ● /
切腹 ● なして/ あひ果つる ● ● ● /
心のうちの ● / 苦しさを ● ● ● /
御兩所方 ● ● /
● 御推量下さりませ.

[こゝに採上げたものは,昭和四十五年,三宅坂國立大劇場において,當時の尾上菊之助(現菊五郎丈)の勤めた勘平の臺詞を寫したものです.僕に『記憶違ひ』があれば,指摘下さるやう,願ふ.]

いかゞであらうか.末尾こそ『破調』となり,話し言葉に戾るが,他はすべて『八拍』を,いはゞ,『一小節』とするリズムの繰り返しであることが判る.また,臺詞の速度が變る場合,殆どは『小節』每の變化となる.

その後,この他にも,典型的な『七五調』である河竹默阿彌の『弁天小僧』の臺詞も試してみた.

知らざあ言つて ● / 聞かせやせう ● ● ● //
● 濱の眞砂と / 五右衞門が ● ● ● /
● 歌に殘せし / 盗人の ● ● ● /
● 種は盡きねえ / 七里ヶ濱 ● ● /
その白浪の ● / 夜働き ● ● ● /
以前を言やあ ● / 江ノ島で ● ● ● /
● 年季勤めの / 稚児が淵 ● ● ● /
百味講(ヒャクミ)で散らす ● / 蒔き錢を ● ● ● /
● あてに小皿の / 一文講 ● ● /
● 百が二百と / 賽錢の ● ● ● /
● くすね錢せえ / 段々に ● ● ● /
惡事はのぼる ● / 上の宮 ● ● ● /
岩本院で ● / 講中の ● ● ● /
● 枕搜しも / 度重なり ● ● /
お手長講と ● / 札附きに ● ● ● /
たうとう島を ● / 追ひ出され ● ● ● /
それから若衆(ワカシュ)の / 美人局(つゝもたせ) ● ● ● /
● こゝやかしこの / 寺島で ● ● ● /
小耳に聞いた ● / 爺さんの ● ● ● /
似ぬ聲色で ● / こゆすりかたり ● /
● 名せえゆかりの / 弁天小僧 ● /
● 菊之助たあ /
● 俺がことだあ /

まさにこれは,きつちりと,末尾に至るまで『一小節八拍』のリズムが繰り返されてゐる.また,その他の特徵としては,句頭に『間』をとるものが多い.いづれも,勘平のやうな『無念』の思ひや,必死な『心情の吐露』とは異なり,相手へ『凄み』を利かせる爲の『口上』だからでせう.

なほ,『小節』ごとに詠まれる速さに違ひの出ることは,勘平の臺詞の場合と同樣です.

---  續く---

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